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ループエンジニアリング
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2016年から2020年まで、僕の仕事はMAMORIO Spotを全国に設置することだった。
MAMORIO Spot。Bluetoothの検知デバイスだ。駅や商業施設に設置すると、MAMORIOタグを付けた持ち物が近くを通ったときに自動検知して、持ち主に通知が届く。忘れ物防止の社会インフラだ。
「置くだけでしょ?簡単じゃん」
そう思ったあなた。甘い。
1つのSpotを設置するまでに、平均3ヶ月かかる。施設のオーナーへの提案、管理会社との調整、消防法の確認、電源の確保、通信環境の検証、設置工事の立ち合い、動作テスト。
そして何より、「なんでウチに置くの?メリットあるの?」という質問への回答。
テクノロジーの普及は、コードを書くことじゃない。人を説得することだ。
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MAMORIOのCOO時代、僕は「朝駆け営業」を信条にしていた。
鉄道会社への営業。始発前の駅に行って、駅長に直接話をする。「始発前なら忙しくないだろう」という読みだ。
これが意外と効いた。
日中に正面からアポを取ろうとすると、「本社に確認します」で3ヶ月は棚ざらしになる。でも、朝の駅は違う。現場の人間が目の前にいる。「ああ、忘れ物ね。毎日大変なんだよね」と、リアルな課題が聞ける。
テクノロジーの普及は、現場の課題感に乗っかることから始まる。
カタログスペックを説明しても響かない。「昨日も傘が30本届いたんですよ」という駅員のため息に、「その傘の持ち主に通知を送れるんです」と応えたとき、初めて目の色が変わる。
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MAMORIOで4年間やって、一番痛感したこと。
技術は差別化にならない。
Bluetoothタグなんて、模倣は簡単だ。実際、似たような製品は山ほど出てきた。TileもAirTagも。
でも、「全国の鉄道会社にSpotを設置するための人脈と信頼関係」は、コピーできない。「駅員が忘れ物を見つけたときにMAMORIOを思い出してくれるカルチャー」は、コピーできない。
製品はコピーできても、それを生み出す組織とカルチャーだけはコピーできない。
これは今、AI時代にも完全に当てはまる。
ChatGPTもClaudeもCursorも、誰でも使える。ツールは同じだ。
でも、そのツールを使って何を作るか、どう社会に届けるかは、組織とカルチャーの問題だ。
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今、僕はVibe Coder Bootcampという事業をやっている。
やっていることは、MAMORIO時代と本質的に同じだ。
テクノロジーを、使えない人のところに届ける仕事。
MAMORIO Spotを駅に置いていたときと同じように、CursorやClaude Codeを企業の現場に「設置」している。
「AIなんてウチには関係ない」と言う経営者に、朝駆けで会いに行く(さすがに朝5時ではないが)。「何のメリットがあるんですか?」と聞かれたら、「御社の業務で、毎日30分かけている報告書作成が5分になります」と、現場の課題に紐づけて説明する。
カタログスペックは語らない。「最新モデルのベンチマークが〜」なんて、誰も興味ない。
「あの面倒な作業、なくなりますよ」
これだけで十分だ。
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シリコンバレーでは「Build it and they will come(作れば来る)」という幻想がある。
来ない。
断言する。来ない。
MAMORIOで100万個のタグを売って、全国500箇所以上にSpotを設置した経験から言う。
テクノロジーは、届けなければ存在しないのと同じだ。
AIも同じだ。ChatGPTのアカウントを持っているだけでは、何も変わらない。それを使って実際の業務を変えるところまで、手取り足取りやる必要がある。
僕のBootcampが「1人あたり180万円」という価格で売れるのは、技術を教えるからじゃない。
技術を、その人の現場に「設置」するからだ。
MAMORIO Spotを1台置くのに3ヶ月かかったように、1人のVibe Coderを育てるのに1.5ヶ月かかる。
でも、一度「設置」されたら、その人は自分でアプリを作り続ける。自分の現場の課題を、自分で解決し続ける。
これが「Spot置くマン」の矜持だ。
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「プログラミングの民主化」とか「AIの民主化」とか、きれいな言葉が飛び交う。
でも、民主化の現場を知っている人は少ない。
民主化とは、「使えない人が使えるようになる」瞬間を、1人ずつ作ることだ。
スケールしない。効率的じゃない。1対1で、目の前の人の「わかんない」に付き合い続ける。
MAMORIOのときは駅のベンチに座って設置作業をした。Bootcampでは受講生のCursorの画面を一緒に見ながらエラーを解決する。
やっていることは、4年前から何も変わっていない。
テクノロジーが変わっても、普及の方法は変わらない。
泥臭く、1つずつ、現場に届ける。
それだけだ。
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*この記事は「Vibe Coder Bootcamp」連載コラムの一部です。*
*詳細はこちら: [https://vibecoderbootcamp.com](https://vibecoderbootcamp.com)*